大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)1321号 判決 1961年10月31日

上告人 安藤治嘉

被上告人 亡安藤ふさ乃の相続財産

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人野村均一、同大和田安春の上告理由第一点について。

一審判決は、当事者として「被告、亡安藤ふさ乃相続人、右特別代理人杉浦酉太郎」と表示していることは記録上明らかであるが、同判決の事実摘示によれば、本訴は上告人から亡安藤ふさ乃の相続財産に対して提起されたものであることは明白であるから、原審において当事者を亡安藤ふさ乃の相続財産と適法に訂正したのは正当であり、右の点についての所論は採用できない。また、杉浦酉太郎は亡安藤ふさ乃の相続財産の特別代理人に選任されたものと認むべきこと前段説示のとおりであるが、相続財産の特別代理人の選任した訴訟代理人は相続財産の訴訟代理人であつて、所論のように訴訟復代理人でないから、所論訴訟代理権の欠缺の主張は前提を欠くもので採用できない。論旨はすべて理由がない。

同第二点について。

亡安藤ふさ乃の相続財産の特別代理人杉浦酉太郎の選任した訴訟代理人伊藤嘉信は右相続財産の訴訟代理人であることは第一点について説示したとおりであるから、右伊藤嘉信が訴訟復代理人であることを前提とする所論訴訟手続において法令違背があるとの主張もその前提を欠くもので採用できない。なお、相続財産の特別代理人の代理権は該相続財産の管理人の選任ないし該管理人の訴訟受継によつて当然消滅するものでなく、裁判所の解任によつて消滅するものであるから、この点についての所論も失当である。論旨はすべて理由がない。

同第三点について。

記録によると、昭和三十四年九月三日期日の原審口頭弁論調書が二通存することは所論のとおりである。しかし、記録一五三丁の口頭弁論調書は、第一二回口頭弁論調書であることから、昭和三十四年十二月三日の誤記であることが明白であるから、所論訴訟法違背の主張は採用できない。論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

上告代理人野村均一、同大和田安春の上告理由

第一点 原判決は訴訟代理権の欠缺ある訴訟代理人の弁論に基いて為した違法なもので破棄を免れない。

(1) 原判決が被上告人の訴訟代理人として掲記している伊藤嘉信は昭和三十一年五月六日津地方裁判所四日市支部において亡安藤ふさ乃の未定の相続人の特別代理人に選任せられた杉浦酉太郎より昭和三十二年三月十八日被上告人の複代理人として選任せられたものである。

(2) 而して右選任に先立つて上告人は昭和三十二年二月四日控訴人を亡安藤ふさ乃の未定の相続人の特別代理人杉浦酉太郎の同意を得て亡安藤ふさ乃の相続財産を訂正している。右の当事者の訂正によつて当事者として表示せられた亡安藤ふさ乃の相続財産と訂正前の亡安藤ふさ乃の未定の相続人とは同一性なきものであるといわねばならない。本来当事者の訂正は当事者と同一性ありと認められる範囲に於て許され同一性の範囲を越える訂正は訂正の名を藉りて別人を表示した当事者の変更であり新当事者に対する訴の追加的併合と旧当事者に対する旧訴の取下との複合的訴訟行為とみるべきものである。之を本件についてみるに亡安藤ふさ乃の未定の相続人に対する訴訟は取下げられ亡安藤ふさ乃の相続人に対する訴訟のみが以後係属していることになる。

(3) 而して杉浦酉太郎は亡安藤ふさ乃の未定の相続財産についての特別代理人でありその代理権も亡安藤ふさ乃の未定の相続人に対する応訴の範囲に止まるべき処その権限の範囲を越え亡安藤ふさ乃の相続財産の複代理人として伊藤嘉信を選任し原裁判所は右伊藤嘉信が昭和三十二年十二月十二日陳述した処の昭和三十一年六月十五日附準備書面の記載を以つて判決の基礎となしている。

(4) よつて原判決は無権代理人の選任した複代理人が無権代理人であることを看過した違法なものであるといわねばならない。

第二点 原審は訴訟手続に於て法令違背があり且つその法令違背が原判決に影響を及ぼすこと明らかであり破棄を免れない。

(1) 原判決は原判決に於て被上告人の訴訟代理人として掲記されている伊藤嘉信が昭和三十二年六月十五日附準備書面に基いて同年十二月十二日陳述した主張事実を判決の基礎たる事実として採用しているが右は当事者の主張しない事実を採用したもので明らかに判決に影響ある訴訟手続の法令違背がある。

(2) 即ち原判決に上告人の訴訟代理人として掲記されている伊藤嘉信は昭和三十一年十二月八日被上告人として昭和三十一年九月二十六日訴訟に補助参加した伊藤稔、伊藤義弘の訴訟代理人として選任せられ更に昭和三十二年三月十八日被上告人特別代理人杉浦酉太郎によつて被上告人の訴訟複代理人として選任せられたものである。

而してその後伊藤嘉信被上告人の訴訟複代理人として選任した杉浦酉太郎は昭和三十二年九月二十六日被上告人の管理人として安藤喜八、安藤文八郎が選任せられ(大阪家庭裁判所昭和三十五年(家)第四四一一号相続財産管理人選任事件)昭和三十二年十二月十二日右財産管理人が訴訟を受継したことから昭和三十三年二月十八日解任されるに至つた。

(3) 而して被上告人の特別代理人杉浦酉太郎は被上告人の相続財産管理人の選任乃至その受継により解任を俟たずその代理権は消滅し、よつてその特別代理権に基いて選任せられた訴訟複代理権もそれに伴つて消滅したものである。従つて昭和三十二年十二月十二日に被上告人の訴訟代理人伊藤嘉信の為した陳述は無権代理人の陳述として無効のものといわねばならぬ。この解釈は昭和三十二年十二月十二日の口頭弁論調書によつて伊藤嘉信が被控訴複代理人兼補助参加代理人として出頭した旨の記載があるもその後の口頭弁論調書に於て伊藤嘉信は補助参加代理人として掲記されているのみであり且つ口頭弁論期日の呼出状も補助参加人代理人としての伊藤嘉信宛に送達されて居り裁判所をしても伊藤嘉信を被上告人の訴訟代理人として取扱つていなかつたものである。

然るに原判決に於ては突如として伊藤嘉信を被上告人の訴訟代理人として掲記し而もその陳述した準備書面の陳述を被上告人の訴訟代理人としての陳述として掲記しているものである。かかる原判決は当事者の主張していない事実を採用したものであつて判決に影響を及ぼすこと明らかな訴訟手続の法令違背あるものといわねばならない。

第三点 原判決は訴訟手続に於て更に法令違背あるものである。

(1) 原審の訴訟手続に於ては民事訴訟法第一四二条の「口頭弁論ニ付テハ裁判所書記期日毎調書ヲ作ルコトヲ要スル」規定により口頭弁論調書が作成せらるべきは勿論である。而してその口頭弁論調書に於ては民事訴訟法第一四三条第二号により裁判所書記は第五号により弁論の年月日の記載が要求される。

(2) 而して原審に於ける口頭弁論調書をみるに昭和三十四年九月三日の口頭弁論調書が二つ存在する即ちその一は裁判所書記官巻田幸太郎の作成した口頭弁論調書であり、その二は裁判所書記官三浦計一の作成した口頭弁論調書である。

(3) 口頭弁論調書は期日毎に作成せらるべきものであり且つその期日に於ける口頭弁論の内容及び特に方式が適法に行われたことを証明すべきものでありその重要性は極めて大なるものがあるといわねばならぬ。

然るに作成者たる裁判所書記官が異なり且つ記載内容が異なる二箇の口頭弁論調書の存在は昭和三十四年九月三日の口頭弁論調書としてはいづれも無効なものであるといわねばならない。而もその後の昭和三十四年十月二十四日の口頭弁論調書は存しなし。一方昭和三十五年二月十六日の次回口頭弁論期日の指定も適法になされたか否や大いに疑の存するところであつてかかる弁論調書の違法は許されない。

(4) 原判決はかかる口頭弁論調書に基いて為されたものであつて原審に於ける訴訟手続は判決に影響あること明らかな法令違背あるものと思料される。

参考

判  決

三重県桑名郡城南村大字小貝須六十九番地

原告 安藤治嘉

右訴訟代理人弁護士 田中長三郎

同県同郡同村同字同番地

被告 亡安藤ふさ乃相続人

右特別代理人 杉浦酉太郎

右当事者間の昭和三一年(ワ)第四五号土地所有権移転登記手続請求事件につき、当裁判所は次の通り判決する。

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の不動産につきその所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

原告訴訟代理人は主文記載の如き判決を求め、その請求原因として、別紙目録記載の土地は、被告亡安藤ふさ乃の所有であつたところ、同人は昭和二年六月二十六日死亡し、相続人がなかつたので旧民法第九八二条により家督相続人を選定せねばならぬのであつたが、当時正式に其手続を執らず、ふさ乃の叔母に当る原告先代たつが事実上、右土地を自己の所有として使用収益するの外ないものとし、親族一同承認の下に、該土地を占有していたが、登記は亡ふさ乃の名義のまま放置し、税金等は代納名義で、たつが納付して来たのであるところが、たつも亦昭和二十九年三月十五日死亡したので原告がその相続をしたのであるが、前記土地は昭和二年六月二十六日以来、原告先代たつ及び原告がその占有の当初から善意で過失なく所有の意思を以つて平穏且つ公然に占有を継続して来た結果、原告に於て、これが所有権を時効に因つて取得したので、茲に本訴請求に及んだ次第であると陳述し、立証として甲第一乃至第七号証を提出し、証人水谷治平、同安藤喜八の訊問を求めた。

被告特別代理人は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、原告先代たつ並びに原告が占有の当初から所有の意思をもつて、本件土地の占有を継続して来たとの点を否認し、その余は全部これを認めると述べ、甲各号証の成立を認めた。

依て按ずるに、原告主張の本件土地が亡安藤ふさ乃の所有であつたこと、同人は昭和二年六月二十六日死亡したこと、右土地は原告先代たつがこれを使用し、且つ収益をして来たこと並びにたつは昭和二十九年三月十五日死亡し、原告がその相続をしたことはいづれも被告特別代理人の認めて争はないところである。そして、証人水谷治平、同安藤喜八の各証言並びに成立に争のない甲第一乃至第四号証及び同第七号証を綜合すると前記たつは安藤房次郎の妹であつて、房次郎が戸主であつた関係から、同人及たつ、その母親まさの等は同じ家の中で共同して生活をしているうちに、房次郎は京都へ出て生活をするようになり、その後前記ふさ乃が房次郎の子として、京都で生まれたものであるが、たつは右房次郎が京都え出て行つた後も本件土地を耕作して来たところ、房次郎が死亡し、同人の唯一の子である右ふさ乃も死亡したため、その所有の本件土地をたつ名義に変更することについての親族会議が開かれた際、たつは本件土地がもともと自分等の家の土地であるから、ふさ乃死亡後、これを受け継ぐ人がなくなれば、その家に生き残つている家族たる自分がこれを所有するのだという、古い無智な人にあり勝ちな心持を抱いていたところから名義を変えるには費用が要るし、誰も他に右土地を取りに来る人も居ないからと言い、そのまま登記名義を変更することをせずして、引き続き本件土地の使用収益をなし従つて税金の如きもたつにおいて、これを納付して来た事実を認めることができるし、また成立に争なき甲第五号証及び証人安藤喜八の証言を綜合すると原告は右たつの養子となつたものであるが、養子となつた当時本件土地がたつの所有地であると思い込んで居り、たつ死亡後は自己の所有地としてこれを耕作占有して来た事実を肯認することができるから結局本件土地はふさ乃の死亡した昭和二年六月二十六日の翌日から起算して、原告が、その先代たつの占有を合せて二十年間、所有の意思を以て、平穏且つ公然にこれを占有して来たものと観るべきであるから、該期間の満了により取得時効が完成し、その結果、原告において、その所有権を取得したものと謂うべきである。よつて原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。(裁判官 中村主税)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例